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グローバル奨学金報告書 河村 陽一郎(2019年10・11月)

マサチューセッツ総合病院 脳神経外科
河村 陽一郎

 

 アメリカは感謝祭からホリデイ・シーズンが始まります。感謝祭はリンカーンが大統領時代に祝日となりましたが、元々はマサチューセッツ移民が始めたものです。クランベリー・ソースと七面鳥を食する習慣がありますが、通勤路で野生の七面鳥に馴染んでいる身としては少々複雑な気分です。クランベリーは北米に元々自生したものらしく、マサチューセッツは全米でも有数の収穫量を誇るようです。祝い事と言えば10月31日はハロウィンでした。19世紀にアイルランド移民が持ち込んだケルト (Celtic)文化ですが、ボストン周辺はケネディ家があるようにアイルランド移民がとても多い地域です。マサチューセッツ総合病院はボストンでもとりわけ歴史あるビーコン・ヒルに隣接しており、かの地はハロウィンが盛大に祝われることで有名です。病院駐車場も、Beacon Hillに繰り出そうとする仮装した人を見ることができました。さすがに長い歴史を誇るだけに、クオリティの高さに驚かされました。最寄りの駅からの家路は普段はバスを使うところですが、その日は30分程かけて歩いて帰り、雰囲気を味わうことができました。我が家の子供達も思い思いの仮装で、当地の文化を楽しんだようです。非常にユニークですが、子供が集めたお菓子は歯科医院で現金と交換できます。これは虫歯予防を目指したものですが、集めたお菓子は米兵に送られるとのことでした。ちょうど“退役軍人の日“も祝日でしたが (子供は休みますが、大抵の大人は勤務します)、兵士や消防士など、国家のために時として身を犠牲にする人々は大変な尊敬を受けている印象です。

 

 さて、10月はホスト・クラブのウィンチェスターRCの定例会、主催するチリ・パーティに参加しました。ポリオの撲滅を目指しているRCの活動の一つとして、近隣クラブが自分たちの活動を報告していました。極寒の海に飛び込むことで支援の意思を示す活動を紹介していましたが、何ともアメリカ的で愉快な気持ちになりました。後者は当地の唐辛子料理のコンテストです。当日、市民ホールは満員の盛り上がりで、RCがいかに街と共に歩んでいるかを知ることができました。プレジデントのLindaさんにはいつも暖かく迎えてもらい、最近退職されたご主人など、ご家族とも触れ合うことができました。

 

 研究については、上司が来年度の予算確保の申請をするための基礎データを得るべく、髄膜腫における免疫反応を患者サンプルを用いて調べました。ヒト悪性髄膜腫ではマクロファージという貪食細胞による免疫がさかんに行われていることが分かりました。その裏で腫瘍によるリンパ球を中心とした免疫回避機構を観察することができました。つまり、我々の体は髄膜腫に対しても免疫応答をしているのですが、狡猾に自分に対する生体内の自己防衛機構を回避していることを確認しました。この治験を元に、腫瘍溶解性ウイルスや免疫チェックポイント阻害剤等を用いて、リンパ球を中心とした免疫機構を活性化して、抗腫瘍効果を得たいところです。アメリカの研究者は日本のそれと比べものにならないくらい厳しい世界を勝ち抜かなければなりません。予算をとれない人間は自分の給与も払えず、大学などの研究機関に残れません。私も必死に戦っていますが、ロータリー財団の皆様のおかげで研究を続けられています。予算申請の時期に感謝の気持ちを新たにしたところです。

 

 また、生命科学の領域はビッグデータの解析が重要となっています。私もこの技術の習得を目指して、ハーバード大によるUNIX、Rについての6日間のハンズオンセミナーに参加してきました。英語かつ元々不慣れなプログラミングについて、必死に食らいついてきました。これだけ情報に溢れている世の中でも、一から学ぶには厳しい世界、イントロダクションとしては最高の機会を頂きました。