2024 ~ 2025年度 グローバル補助金 奨学生
川﨑 千祥
第8回 中間報告書(2025年5月1日 ~ 2025年5月31日)
1. 基本情報
カウンセラー(派遣側) | 熊本江南ロータリークラブ |
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カウンセラー(受入側) | Rotary Club of Barnet |
教育機関 | London School of Economics and Political Science (LSE) |
専攻分野 | 平和構築と紛争予防 |
2. 学業面での成果,状況,予定等
今月は、学業面において大きな節目となる期末エッセイ(各3000語×3本)の提出と、修士論文の基礎資料としての「Annotated Bibliography(注釈付き参考文献リスト)」の提出を行いました。
エッセイに関しては、前期に「記述的ではなく、より分析的に書くように」とのフィードバックを受けていたため、今回は「なぜそのような現象が起こるのか」「その事象が国際社会にどのような影響 を与えるのか」といった“Why/How”の視点を意識し、複数の角度からの考察と評価を盛り込みました。Annotated Bibliographyでは、修士論文においてベースとなる主要な30本の文献を厳選・ 整理しました。膨大な資料を読み込む作業は容易ではありませんでしたが、この過程を通じて、論文執筆への足場が固まったという実感があります。
また、修士論文に関しては2回目のアカデミック・アドバイザーとの面談も実施し、6月中旬から予定しているインタビュー調査に向け、「Ethics Review(倫理審査)」の提出も完了しました。この書類では、調査の対象やトラブル時の対応策など30項目以上について詳細に記載する必要がありました。学部時代には経験のなかった厳密な審査プロセスを経て、倫理審査とは「調査対象者の 尊厳と安全だけでなく、研究者自身を守るプロセス」であると改めて感じました。
学内外の活動
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LSE 主催イベント:Spring Farewell Party
5月初旬、LSE のGender Studies学部が主催する「Spring Farewell Party」に参加しました。教授陣や同級生たちと再会できる貴重な機会となり、特に、長年フェミニスト政治理論を研究し、私自身も師事していたSumi Madhok教授の
“It is much harder to ’remain’ critical than to become critical.”
という言葉が心に残りました。現状に疑問を持ち続ける姿勢、そして批判的思考力は、研究だけでなく、今後生きる上でも大切にしていきたいです。Spring Farewell Partyにて、Gender Studies学部の友人と
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Goodenough Collegeでの課外学習:Dean’s Trip
Goodenough Collegeでは、寮長(Dean)の企画による課外学習プログラム「Dean’s Trip」が定期的に開催されており、今月はSt. Albansを訪れる機会に恵まれました。この地は、古代ローマ 時代の町「Verulamium」の遺構が残る歴史的都市です。
今回は、大英博物館のキュレーターでありローマ史研究の第一人者であるSam Moorhead教授による解説が行われ、実際の遺跡を歩きながらローマ帝国下の英国における支配構造や、貨幣制度の変遷について学びました。
これまで「古代ローマ=ヨーロッパ大陸中心」というイメージを持っていましたが、実際にはブリテン島においても複雑な植民地支配の実態があり、その痕跡は今日の都市構造や文化にも色濃く 残っているという話は非常に興味深く、視野を広げてくれるものでした。
St. Albansの博物館で展示されていた、ローマ帝国時代に使われていたコイン
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Goodenough Collegeでの講演:Port Talks
Goodenough Collegeでは、学術活動の一環として、年間を通じて「Port Talks」と呼ばれる講演シリーズが開催されています。このシリーズは、学寮長(Dean)と学術委員会のメンバーによって企画され、ビジネスリーダー、政府関係者、文化分野の第一人者など、各界で活躍する著名な講演者を招いて行われます。
今月は、以下の2名の著名な研究者による講演を聴く機会がありました。
- Sir Lawrence Freedman(King’s College London 名誉教授) 「ロシア・ウクライナ戦争の地政学的影響」について講演され、冷戦終結以降のNATO拡張や核抑止理論の再解釈といったテーマを、多角的な視点から論じられました。
- Professor Michael Cox(LSE IDEAS創設者) 「アメリカの対外政策の変遷」について、歴史的背景を踏まえながら、民主主義の理念とその実践との乖離、さらに近年のポピュリズムの台頭について問題提起をされました。
講演後には、講師と直接対話できる時間も設けられており、参加者同士の議論も活発に行われます。寮という落ち着いた空間で、少人数でじっくりと話を聞けるこの環境は、私にとって非常に貴重で贅沢な学びの場となっております。
少し余談ですが、このPort Talkが開催された「Churchill Room」は、その名の通りSir Winston Churchillにちなんで名付けられた部屋だそうです。第二次世界大戦中には、チャーチルの名を冠した将校クラブがここに置かれており、彼らがロンドンハウスを「もう一つの故郷」1として過ごしたことに由来しているそうです。下の集合写真の左端にも、チャーチルの肖像が額に収められて写っており、空間そのものが語る歴史の重みを感じました。
Goodenough College. (2025). Churchill Room.Professor Michael CoxによるPort Talk後の懇親会にて。左端に写るのはSir Winston Churchillの肖像画。
その他、期末レポートを中旬に提出し終えたこともあり、後半は少し肩の力を抜いて、ゆったりと旅行を楽しむことができました。たとえば、かねてより訪れたかったカンタベリー大聖堂に足を運び、現地ではイギリス国教会の歴史や背景について学ぶ機会を得ました。
カンタベリー大聖堂の内部にて
また、寮の友人たちとも多くの交流がありました。自宅から持参した茶器を使って抹茶ラテを一緒に作ったり、日本酒紹介イベントに参加したりと、日本の食文化を共有する機会が続きました。さらに、インド人の友人をはじめとする多国籍な仲間と、日本式・インド式それぞれのカレーを夕食に作り合いながら、なぜそのスタイルが生まれたのかについて語り合うなど、文化交流が深まったひとときとなりました。
自宅からお気に入りの茶器を持参し、寮で抹茶ラテ作りの会を主催。
寮で開催された日本酒テイスティングイベントに参加し、銘柄の違いを学びながら、日本酒の魅力に触れました
インド式と日本式のカレーを一緒に作り、食文化の違いや共通点について語り合いました。
今月のハイライトは、何と言っても、寮で開催した「日本祭り(Japanese Festival)」です。40人以上の友人たちが集い、賑やかで温かい時間となりました。前半では、他地区のロータリー奨学生と協力し、寿司作りのワークショップを行いました。
参加者の中には寿司を初めて食べるという方もおり、「敷居が高いと思っていたけれど、ロンドン のスーパーで材料が手に入ると知って驚いた。健康的で子どもにも良さそうなので、今度作ってみたい」と言っていただけて、非常に嬉しく感じました。
フェスティバルを通じて、親日家で日本文化に関心を持つ方々に多く出会いました。日本に住んでいると、どうしても日本社会が抱える課題に目が向きがちだったのですが、海外に出てみることで、歴史、食、ポップカルチャー、そして治安の良さなど、日本が高く評価されている側面に改めて気づかされます。そのような中で、自分自身が誰かの中にある「日本像」の一部を形作る存在であるということに、改めて責任と誇りを感じました。そして、私という存在を通じて、少しでも多くの人に日本の魅力を伝えることができたら嬉しいと思いました。
「日本祭り」にて一番思い出に残っているアクティビティについて、ジェスチャーで表現してもらいました。
巻き寿司の作り方を紹介しながら、日本の食文化をシェアしました。
3. 受入ロータリーとの交流
今月は、嬉しいロータリーのつながりがありました。かながわ湘南ロータリークラブの高木直之氏が、同じくロータリー奨学生としてLSEで学び、Goodenough Collegeに在籍している私の友人を訪ねて、寮を訪問してくださいました。
その際に高木氏が行った講演では、「リーダーシップとはどのように活用され得るのか」というテーマを中心にお話を伺うことができ、自分がいただいている奨学金が、どのような思いや支援のもとに成り立っているのかを改めて深く理解する機会となりました。今後もロータリーの理念に沿った形で、自分なりに社会に貢献していきたいという気持ちが一層強まりました。
寮で開催された、かながわ湘南ロータリークラブ・高木氏による講演の様子