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グローバル奨学金報告書 河村 陽一郎(2020年11月)

マサチューセッツ総合病院 脳神経外科
河村 陽一郎

 

アメリカの10-11月は何と言っても大統領選挙一色でした。メディアの事前予想と大きく異なり、トランプ現大統領が善戦した事は驚きをもって受け止められました。保守層を中心とした“隠れトランプ”と言われる層はメディアが想像する以上に大きな勢力でありましたが、若者を中心とした、積極的に投票に参加していなかった層がバイデン支持に流れたことで今回は勝負あったようです。とは言え、今なおトランプ陣営や大半の共和党上院議員がバイデン候補の勝利を認めておらず、異例の事態となっていることは、日本のメディアを通じてご存知かと思います。トランプ大統領の訴訟で結果が覆ることはないとの大方の予想ですが、年明けの新大統領就任までは目が離せない状況です。
アメリカは以前に増して、国民の価値観は大きく分断されています。バイデン次期大統領とハリス女史がトランプ支持者の意見をいかに汲み上げていくかは大きな課題です。また、多くの大手メディアは今回の選挙でバイデン候補および民主党を支持しており、報道の仕方は全体をもってしても公平とは言えないものでした。インターネット全盛の時代にメディアのあり方、受け手のリテラシーも問われたように感じました。
政権が変われば、社会保障などの多くの分野で制度の変更が予想されます。現政権下で留学生はビザ申請等で多くの不安を感じておりました。新政権で、これらが是正されることを願っています。

 

この大統領選に関わる選挙運動によるか、米国のCOVID-19感染者は増加し、第三波とも言える状況になっております。日本も同様に3つめのピークを迎えておりますが、アメリカは感染者数、死亡者数ともに他を圧倒しております。ボストンや隣町のケンブリッジは学校の閉鎖、飲食店の時短営業と数ヶ月前に逆戻りしています。
そんな中、モデルナやファイザーが開発したRNAワクチンで、期待できる効果が報告されました。2つのワクチンの開発にはこのケンブリッジが関わっています。世界中の人がコロナにより、健康・経済的なものを含め様々な損失を受けています。このワクチンの効果という明るいニュースにより、多くの住民は長いトンネルの向こうに光を見出している様子です。

 

研究は前回報告したとおり、動物実験を主に担当しています。我々の研究室は、脳原発の悪性脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ)に対して、アデノウイルスをベースとした特殊な腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた治療が有効であることを証明し、私が第2著者として、Clinical Cancer Research誌への掲載されることが決まりました。
また、師事するMartuza博士を中心に開発された、特殊なサイトカインを発現するように遺伝改変したヘルペスウイルスが膠芽腫に有効であることを証明し、臨床試験を目指しています。この度、当局からの指示により毒性実験を行い、私も動物実験の担当として参加しました。自然株のヘルペスウイルスと異なり、このウイルスは正常脳細胞での増幅能力が乏しいとの従来の予想を証明することができました。
その他にも、研究室が開発した様々な遺伝子改変ウイルスを脳腫瘍動物モデルで試しており、いくつかが論文として少しずつ形になってきております。

 

また、顕微鏡下の手術手技を買われ、同フロアの循環器内科の研究室での仕事も手伝うようになりました。様々な循環器疾患の実験モデルでは、バイパス術や微小な血管への操作が要求されます。私は臨床医としては血管系の疾患を多く手掛けており、十数年前の研修医時代は手術トレーニングではマウスやラットを用いることも多くありました。その頃に親しみ、比較的慣れた手技が、2-3年滞っていたプロジェクトを推進することとなりそうです。もちろん素晴らしいアイデアを思いつき、業績を上げるのが一番です。ただ、自分の技術を通じて医学研究、ひいては社会に貢献できることは大きな喜びであります。

 

11月21日は、グローバル奨学金のホストであるウィンチェスター・ロータリークラブの主催する“Food Drive”に参加して参りました。これは余っている食材を持ち寄り、生活困窮者に配る取り組みです。現地の高校生が多く手伝いにきておりました。私も道沿いの案内に立ちましたが、通過するほとんどの車のドライバーが手を振り、クラブの活動を支持してくれています。アメリカではボランティア活動が学校や会社で評価される仕組みがありますが、社会貢献が当たり前の精神として住民に根付いていることを改めて感じさせられました。
新会長のJeff Wheeler氏、前会長のLinda Doucette女史ともCOVID-19パンデミック以降、久しぶりにゆっくりと話すことができました。初めてお会いする会員方も、わざわざ話しかけて下さり、気持ちよくお手伝いすることができました。

 

ロータリー財団の皆様のご理解で留学生活を継続できていることを、心より感謝申し上げます。故郷・熊本で恩返しできる日を楽しみにしていますが、研究に限らず、もう少し米国で学びたいと思っています。

グローバル奨学金報告書 河村 陽一郎(2020年11月)

左: 現会長たちと 右: 前会長、前々会長も参加