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グローバル奨学金報告書 河村 陽一郎(2020年9/10月)

マサチューセッツ総合病院 脳神経外科
河村 陽一郎

 

ニューイングランドの短い夏は終わり、すっかり秋めいてきました。ボストン周辺は森林が豊かで、車を10分も走らせると、パッチワークに例えられる美しい紅葉を楽しめます。10月末のハロウィンを控え、周辺の家は凝ったデコレーションも始まりました。恒例の仮装行事はあいにく中止が多いようです。これに続く感謝祭やクリスマスはどのようになるのでしょうか。通勤時など珍しい米国の様子をしっかり観察するつもりです。
所属するマサチューセッツ 総合病院 (MGH)は6月初旬の再開から、4ヶ月です。Covid-19を理由に何にもの日本人留学生が大幅に予定を短縮し帰国しました。10月からは新たな日本人留学生が到着し、新たな生活を始めました。Pay forwardでは無いですが、彼らの研究のセットアップの少しでも手助けになればと思います。
バスや地下鉄の利用者は少ないものの、ボストン市内の自動車量はCOVID–19パンデミック前と同等まで回復しています。研究について、残念ながら物流は回復せず、“チップ”や“ピペット”といった当たり前の器材まで不足しています。中国からの輸入が滞っているのか、Covid-19関連の研究を優先しているからか、発注から到着まで数ヶ月を要します。実験動物の不足も目立ちます。
留学の醍醐味の一つであった、著名な研究者による講演も中止またはオンライン化しています。半年前は毎日色々な会場で昼食付きの講義を聴けたのですが、パソコン画面を通じた講義は味気ないものです。

 

さて、本報告を書く数日前に乾坤一擲の動物実験を終えました。30匹以上のマウスを用い、免疫不活効果を増強させた特殊な“腫瘍溶解性ヘルペスウイルス”と本庶佑博士の開発した“免疫チェックポイント阻害剤”を組み合わせ治療するのですが、残念ながら大きな治療効果を生むことができませんでした。同時に試していた別の脳腫瘍では効果的でしたが、研究対象の悪性髄膜腫には効果がありませんでした。パンデミックによる自宅隔離を除き、アメリカ生活の全精力を傾けてきたつもりです。実験動物に移るまでの基礎実験では良いデータを得ていたこともあり、心を打ち砕かれた次第です。現在は新たなウイルスを試すべく計画しているところです。ここまで来て、結果を出さずに帰れるかという思いもあり、次は何とか行って欲しいものです。
大量の動物に腫瘍の移植、ウイルス投与を行う訳ですが、結果は手技の精度によることもあります。私は外科医としての経験を買われ、同僚の動物実験を手伝っています。彼らは幸い良いデータを集められており、面目躍如といったところです。
自宅隔離で空いた時間に勉強した知識を試すべく、アメリカの医師国家試験を受けてきました。米国の試験は4段階に分かれており、コンピュータベースで常時受けることができます。2段階までを終えました。今回のステップ2は約320問を1日8時間かけて解くものです。医学英語の勉強になればと受けましたが、疲労困憊です。日本では国家試験化されていない実技試験 (模擬患者を用いる)はやはりコロナで中止をしているようです。

 

ウィンチェスターのロータリークラブはLinda Doucette女史が任期を終え、Jeffrey Wheeler氏が新たなプレジデントに就任されました。これまで2度ほどお会いしています。現在は定例会もZoomを用いたオンラインとなっています。直に再会できる日を楽しみにしています。ロータリー財団の皆様のご理解で留学生活を継続できていることを、心より感謝申し上げます。